グループの中で自分だけがそれまでの経験も実績もないままメンバーに選ばれてしまい、みんなになじめなくて辛かったこと。

他のメンバーはすでに何年か、中には７年も活動をしてきているのに自分は事務所に入って一年もたたないうちにデビューすることになり、メンバーからも「おまえ誰？」と言われてしまったこと。

それでも少しでも追いつこうと一生懸命努力したのに失敗をしてしまい、ますます他のメンバーとの溝が深まったと感じてしまったこと。

実際には楽しくないし親しくもないのに、テレビなどに出れば楽しそうに話さなければならないそのギャップについていけなかったこと。

１５歳の男の子（見た目はもっと幼く感じました）にはすべてが辛いことだったと思います。
やめようと思ったとも言っていました。
それでも続けてこられたのは歌があったから。
自分に出できることは歌を歌うことだから。
そして今は歌に感謝していると言っていました。

今も歌は特別で、将来は上手い歌手より感動を伝えられる歌手になりたい
音程をはずしてでも歌詞から伝わるものがあればいい

そんなことを話していたのがとても印象的でした。

だからあんなに言葉を大切に丁寧に歌を歌うんですね。

後で知ったことですが、とうとう辛くて耐えられなくなり親友に相談したけれど期待していた答えがもらえず本当にやめてしまおうと思ったことがあったそうです。
そのときたまたま目に入ったファンからの手紙。

そこで自分の歌声に励まされたと言っている人がいることを知り、

せっかく自分を見て元気や勇気をもらったと言ってくれる人がいるのに、自分の勝手な気持ちでやめちゃいけない

そう思ったって言っていました。

彼は本当に歌が好きで好きでたまらないんだろうな。
歌えるってことはそれだけでとても幸せなことなんだ。

そんなふうに思ったら私も今すぐに歌いたくなったのです。
もう一度歌いたい。
私も何よりも歌が好きだったはず。

高校時代、３年生になったとたんに同級生が受験のために部活をやめちゃって私１人になっても続けました。
他の部活の３年生がみんな引退する夏休みを過ぎても、音楽部の３年生が引退する秋の合唱祭を過ぎてもかってに残って卒業まで続けちゃったんだ・・・。

他の３年生は引退してるのに私だけ夏休みも部活に行くために定期代を出してもらうのは申し訳なくて片道１７ｋｍの道を自転車で通いました。

結婚して子どもが生まれて知り合いの誰もいない土地に引っ越しても、ママさんコーラスがあると聞いてじっとしていられなくて子連れで通ったりもしました。

内気で消極的な私が歌のためならがんばることができたんです。
だってしんどいとか恥ずかしいとかいうことは、歌いたいという気持ちの強さに比べればどうってことなかったから。

歌えるだけでしあわせ

いつもそう思っていたのに、いつのまに私は自分の歌いたくない歌は嫌だとか、自分と考えが合わない先生は嫌だとか贅沢なことを考えるようになってしまったんでしょう。

もう一度初心に帰って歌うことを純粋に楽しみたい
私には私の歌を楽しみにしている人も、私の歌で励まされる人もいないけれど、私が歌いたいのだからそれでいいじゃない。
もう一回始めてみよう。

そう思って合唱団に復帰しました。
復帰してからもお金がないので衣装のドレスが買えないとか問題もありましたが、リーダーがレンタルでもＯＫって言ってくれたりしてなんとかなりました。
まだ嫌なこともありましたが、歌えるんだったらどんなことでも我慢しようと思いました。

大丈夫。
歌いたいという気持ちがあればなんとかなる。
いちばん大事なのは歌いたいという気持ちだから。

あんな小さな男の子だって負けないでがんばってきたのにいい歳した大人が情けないこと言ってたら恥ずかしいよね。


こうして一度はやめようと思った歌を今も続けているのですが、あれ以来私は一度も歌うことが嫌だと思ったことはありません。
どんな歌でもちゃんと聴く人に伝えられるように歌おうと思っています。

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